いつもは近くに見えても、遥に遠い存在であるレースクイーンの艶かしいレオタード姿。
 そのレースクイーンが、手を伸ばせば触れられる程の至近距離で笑顔を振りまきながらポーズを取っている。
(優梨子ちゃん達は俺のものだ!)
 誰にも聞えない幽体の声で叫んだ奥治は、カメラ小僧達の前に大きく手を広げて立ちはだかった。
 三段腹に、頗る興奮して勃起した肉棒。
 霊感の強いカメラ小僧なら、フィルムに写っているかもしれない。
 それはさぞかしおぞましい写真になっていることだろう。
 何も知らない優梨子たちは、たまに並ぶ順番を変えながら相変わらずの笑顔でポーズを取っている。
 優越感に浸る彼は優梨子の前に立つと、その容姿を上から下まで舐めるように眺めた。
 滑らかな首筋。そして密着したレオタードの生地に隠された胸。
 その開いた胸元が何ともセクシーで、くっきりと見える谷間から、かなり大きな胸だと推測できる。
 そして女性らしい曲線を描くウェストに滑らかな股間。
 奥治の腕回りくらいしかないと思える程、ほっそりとしなやかな太ももに長い足。
 ロゴの付いたパンストに、彼は何故かドキドキした。
 後ろにあるレーシングカーなんて何の興味も湧かない。
 彼女達を魅力的に映し出す、単なる飾りにしか思っていないようだ。
 奥治はふわりと浮き上がると、優梨子の後ろに回りこんだ。
 ライトブラウンの長い髪が撫でる背中。
 レオタードが少しお尻に食い込んでいる様子がたまらなかった。
(うわぁ……。いやらしいお尻だなぁ。さ、触ってみたい……)
 そんな衝動に駆られた彼は、レオタードに包まれたお尻の前にしゃがみ込んだ。
 ほんの十センチ程の距離に優梨子のお尻がある。
 鼓動を高ぶらせながら、幽体の両手をゆっくりと、ゆっくりと彼女のお尻に近づけていった。
 そして触れた瞬間――優梨子が「きゃっ!」と小さく声を上げて振り向いた。
(わっ!やばいっ!)
 たじろいた奥治は、ステージにお尻を着くような体勢で顔を強張らせた。
 優梨子と二人のレースクイーンが奥治を見ている。いや、正確には奥治のいる辺りを見ていた。
 しかし、彼女達と目線が会うことはない。
「どうしたの?」
「えっ……うん。急にお尻を触られた感じがして」
「気のせいじゃない?こんなに人がいるところで……それにステージの上だし」
「……っていうか。誰もいないよね」
「う、うん……。だよね」
 幽体であるにも拘らず、奥治の手は彼女のお尻に触れることが出来た。
 よく考えてみれば、自分の体にだって触ることが出来たのだ。
(き、気付いていない。やっぱり見えないんだ。でも……優梨子ちゃんに触る事が出来たよ。レースクイーンのお尻に触ったんだ。これってすごいよなっ!)
 幽体の掌を見つめ、はぁはぁと息を乱した奥治は、またポーズを取り始めた三人の後姿を眺めた。
 どうやら、壁などはすり抜けられるが、生きているものには触れるらしい。
 誰にも気づかれずに優梨子を触る事が出来るのだ。
 しかし、この状況で見えない奥治が触ると、優梨子が変に思われるかもしれない。
 優梨子を変な目で見られるのは嫌だし、彼女を大切にしたい。
 そう思った彼は、欲望を押し殺して彼女たちが休憩に入る時を待つ事にした。
 人気のない場所ならば少しくらい触っても大丈夫だろう。
 そんな風に思ったのだ。
 そして彼の願いはほんの少し後に叶うことになる。
 ステージの奥からスタッフの男性が現れ、彼女達を関係者しか入れない通路へ連れ出したのだ。
(ラ、ラッキー!このタイミングで休憩に入ってくれるなんて。あのスタッフに感謝しないとなっ!)
 手を振りながらステージを下りた彼女達と共に通路を漂う。
 関係者以外立ち入り禁止という場所に踏み込んだ彼の鼓動はずっと高鳴っていた。