朝も待ち合わせをする訳じゃないので、一緒に登校していない。
 だから肩を並べて歩くなんて、随分と久しぶりに思える。
 学校で会話をする事はあっても、これほど接近して肩を並べないので背の高さが昔と随分変わってしまった事を思い知らされる。赤い髪から視線を落すと、白いセーラー服に包まれた胸がその存在をアピールしていた。

「どこ見てるんだよ」
「あっ。い、いや……」
「後で好きなだけ見せてやるし、触らせてやるからさ」
「そ、そんな事は別に……」

 智也に乗り移られた春香が、普段は雄喜に見せない笑顔で話しかけてくる。
 それが新鮮でもあり、心のときめきを感じた。

「俺がこうして他人の体に乗り移れるようになったのはつい最近の事なんだ」
「……へぇ〜」
「意識すれば体から自然に幽体が抜け出るっていうか……最初はすげぇ気持ち悪かったよ」
「そうなんだ。その感覚は全然分からないけど」
「だろうな。気持ち悪くて吐き気がしたよ。でも自分の意思で体に戻れるし、慣れてしまえば結構面白かったからさ。壁とかすり抜けられるし、空を自由に飛ぶ事が出来るんだ」
「それはすごいな。俺も一度はその……幽体離脱ってのをやってみたいもんだよ」
「だろ!で、俺が一番最初にやった事はなんだと思う?」
「そうだな。智也の事だから女湯でも覗きに行ったんだろ?」
「ピンポーン!正解。さすが雄喜だな。俺の事がよく分かってる。でも、平日の夜中って殆ど人がいなくてさ。いても若い女じゃなかったし」
「まあ、若い女性が平日に銭湯を利用するなんて滅多になさそうな気がするよ」
「ああ。だから俺が住んでいるマンションの片っ端から探索して若い女が風呂に入っていないか調べまわったんだ」
「良くやるなあ。さすがにそこまではやろうと思わないけど」
「でもさ、二人いたんだぜ。若いっていうか、俺達と同じ高校生くらいの女の子が」
「そうなのか?」
「ああ。全然知らない顔だったけど。きっと夜遅くまで遊んで帰ってきたんだろうな。で、その時に始めて体験したんだよ」
「体験したって?」
「乗り移ったって事さ。後は電車に乗ってからな」

 二人は話しながら駅前に着くと、そのまま改札を通り電車に乗った。
 春香はずっと智也のしゃべり方で話しかけてくる。声は違うものの、目を閉じれば智也と話しているようにさえ思えた。
 比較的込んでいる電車内。自動ドアの前で互いに向き合いながら更に話を続ける。

「……その女の子に乗り移ったって事か」
「ああ。触るつもりで近寄ったんだけど、スルスルと幽体が女の子に入り込んじまって。気が付いたら湯船に使ったまま気を失っていたんだ」
「へぇ〜。その女の子って意識はなくなるのか?」
「俺が乗り移っている間の意識はないみたいだな。だから新道もこうやって俺が乗り移っている間は意識がないし、何も覚えていないんだ」
「そ、そうなんだ……」
「だ・か・ら!俺が言いたい事は分かるだろ?」
「で、でもさ……」
「まあいいや。後はお前の家についてからのお楽しみって事で」
「俺の家って……。春香の体のまま来るのか?」
「それ以外にどうするっていうんだ?一緒に帰って、はい終わりって訳ないだろ」
「……でもやっぱりさ」
「素直じゃないよな、雄喜は。俺が逆の立場なら今すぐにでもやらせてくれって頼むのに」
「そ、そりゃ俺とお前じゃ感覚が全然違うから……」
「付き合いたいって思っていた幼馴染の新道がここにいるんだぜ。しかも、俺が乗り移って。何もためらう事、ないと思うんだけどさ」
「だって……春香の知らない内にそんな事するなんてさ……何だか卑怯な気がして」
「そうか。それなら……大丈夫だよ。私は雄喜とセックスしたいって思ってたから。心配しなくてもいいからね」
「えっ……。は、春香?」

 急に小声で囁き始めた彼女は、声が届くように雄喜に体を密着させた。
 しゃべり方が変わると、本当に春香のように思える。
 そして胸の柔らかさが制服越しに伝わってきて、俯くとセーラー服の中には胸の谷間が覗き見えた。

「私、最近は全然一緒に帰れなかったけど、こうやって二人きりで帰る事が出来て嬉しいんだ。雄喜は?」
「……お、俺も……嬉しいよ」
「そう。それなら良かった」

 不意にズボンの前が撫でられた感じ。
 そこには白くて柔らかい手が宛がわれていた。

「は、春香……ちょ、ちょっと……」
「シ〜ッ!何も言わないで」
「だ、だって」

 春香が空いている手を口元に持ってきて、しゃべらないように人差し指を立てた。

「女の子の手って気持ちいいでしょ。雄喜が願う事はこの体を使って、何だってしてあげるから」

 周りには多くの男性が乗っている状況でこんな事をされるなんて。
 雄喜の興奮は肉棒に伝わり、トランクスの中で大きく膨れ上がった。

「興奮してるんだね。でもイッちゃダメだよ。優しく撫でるだけだから。雄喜の家に帰ったら思い切りしてあげる」

 ズボンの上から肉棒に掌、そして手の甲を擦り付ける春香。
 しごかれている訳ではないが、こうして撫でられるだけでも十分に気持ちよかった。
 そしてしばらく撫でられた後、ズボンごと少し力強く握り締められ、開放される。
 それが最寄の駅に着くまで繰り返された。
 数秒しごかれるだけで射精してしまったかもしれないが、春香は握り締めた手を上下に動かす事はなかった。
 しかし雄喜は、トランクスの裏生地にガマン汁が大量について滑っている事を感じていたのだ。
 このモヤモヤした感じは嫌だ。
 自分でしごいてイッてしまいたい。
 そんな風にさえ思えた。

「そろそろ駅に着く頃ね」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「そんなに興奮しなくてもいいのに。へへへ……体は正直だからな、雄喜。素直になれよ」
「……と、智也。やっぱり……智也だったんだ」
「新道のしゃべり方を真似するくらい簡単な事さ。多少違っても、新道の体で女言葉をしゃべられたら錯覚するだろ?」
「……ま、まあな」
「どっちがいい?俺のしゃべり方か、新道のしゃべり方か」
「……べ、別に……どっちでもいいよ」
「そっか。じゃあテキトーにするから。早く家に行こうぜ」
「…………」

 電車がホームに着くと、二人はまた肩を並べて歩き始めた。
 そして、十分ほど歩き、雄喜の家に着いたのだった。