(気持ちよかったぁ。幽体に弄られるのってあんなに気持ちがいいものなんだ。オナニーするのとは全然違うよな。ちょっとハマッちまいそうだ)

 幽体となって部屋に浮かんでいた平治は、十分に堪能したという表情でベッドに寝転んでいる香帆を見ると、(海十、後はじっくり楽しめよ)と自分の体に戻っていった。
 一方、香帆は強烈なオーガズムに達し、虚ろな目で天井を眺めていた。下半身から沸き起こる快感が、まだ小さな津波となって脳に刺激を与えている。

「あ、あぁ……」

 何度か瞬きをした後、ゆっくりと上半身を起こした。愛液で濡れたパンティとジーパンがヌルヌルして気持ち悪い。しかし、それよりも目の前にある胸の膨らみに神経が集中した。Tシャツの生地を盛り上げる膨らみ。そして、その中心辺りに小さく膨らんでいる乳首。

「……む、胸……。あっ!お、俺っ、姉貴に乗り移った!?」

 両手で胸を鷲掴みにし、その質感を掌に感じる。弾力と重み、そして温かさが伝わってくる。更には頭の中に香帆の記憶が蘇ってきた。他人の体なのに蘇ると言う表現もおかしいが、最初から知っていて思い出したという感覚だ。

「あ、姉貴が俺の中にいる?いや、俺が姉貴の中にいるんだよな。す、すげぇ……姉貴の事が……姉貴が全て分かるっ!」

 どうやら香帆は、帰りの電車の中で平治の幽体に弄られ始めたらしい。その違和感に戸惑い、駅のトイレに入ったのだが、そのまま平治にイカされて体を支配された。記憶はトイレの中でイカされた瞬間、途切れている。そして新たに刻み始めた記憶は、これから海十によって作り出されるのだ。とはいえ、平治や海十が乗り移っている間の記憶を香帆は知らないのだが。
 香帆は海十が体から抜け出ても、海十達が乗り移って行ったことは一切覚えていないのだ。このまま一生、香帆として生きていくことも出来る。自分の体を捨て、姉として、女として生きるのもいいかもしれない。しかし、今はまだそこまで考えていなかった。
 胸の質感を確認した後、ベッドから立ち上がり部屋の隅にある姿見に全身を映し出してみる。
 いつも見慣れている姉の容姿。しかし、こういうアングルで姉を見ることは無いだろう。海十が見つめる姿見の中の瞳には、香帆しか映らない。それは本人でなければあり得ない事実なのだから。

「スタイルいいよなぁ。こんなにウェストが細いんだ」

 香帆の手を使ってウェストを挟み込んでみると、その細さが一段と良く分かった。タイトスリムジーンズに包まれる太ももだって見事なものだ。後姿を映し出し、張りのある引き締まったお尻を撫でる。女性のお尻なんて撫でた事はないが、こんな感じなのかと改めて感心した。

「ううんっ。折角だから姉貴を堪能するか。ごめんな姉貴。しばらく姉貴の体を記憶を借りるからなっ!」

 夕食は大学で友達と済ませたらしい。今日は女友達三人と食べたが、三日前は同じサークルの男友達も混ざって食べたようだ。そんなつまらない事を思い出しながら、海十はタンスから香帆のパジャマと下着を取り出した。

「へへ。さ〜てと……。もうっ!海十にイカされてジーンズが濡れちゃった。早くお風呂に入ってさっぱりしたいわ」

 どうやら香帆への成りすましを始めたらしい。
 海十は部屋を出ると、そのまま階段を下りてキッチンに足を運んだ。

「お母さん。私、お風呂に入るね」
「ええ。海十は?」
「もう寝ちゃったみたいね。ベッドで寝息を立ててたから」
「そう。今日はやけに早いわね」
「疲れてたんじゃない?学校休んでたんでしょ」
「調子が悪いから休むって。仮病かと思っていたけど」
「たまにはいいんじゃないの?勉強できない割には休まずに学校に行ってたんだから」
「そうね」
「じゃあ、入ってくるね」

 母親の目にはどう映っただろうか?
 香帆の瞳の奥に、海十の存在を感じただろうか?
 おそらく、母親には海十の存在は全く見えなかったはず。それが嬉しい海十は、香帆が好きなアイドルの鼻歌を歌いながら脱衣所で服を脱ぎ始めた。洗濯籠を見てみると、香帆のブラジャーが入っている。きっと平治が乗り移ったときに、ここでブラジャーを外して部屋に入ったのだろう。そんな事を思いながらTシャツを脱ぎ、タイトスリムジーンズとパンティを引き下ろした。

「やだ。パンティが糸引いてる。私、そんなに感じちゃったんだ」

 白いパンティの股間に染み込んだ愛液。それを手にとって鼻に近づけると、女性特有の匂いがした。
 裸になったところで全身を眺めてみる。形の良い胸に、余分な脂肪が付いていないお腹。パンティを穿いていた線が薄っすらと赤く付いている。そして薄めの陰毛に隠れた性器。

「相変わらず私ってスタイルいいわよね。男が寄って来ないはず無いじゃない」

 密かに自慢の体。もちろんスタイルを維持するために食べ物にも気を使っているし、大学ではそれなりの運動はしているつもりだ。そんな苦労を知らなかった海十だったが、こうやって姉に乗り移り、記憶を持つことで理解できるのだ。

「ご苦労さんだなぁ……。それよりも早くお風呂に入って股間を洗い流したいわ」

 タオルを広げ、胸から垂らしてバスルームへ入ると、早速股間を流して湯船に浸かった。
 湯気が立ち篭るバスルームに姉が一人。湯船に浮かぶ乳房が、胸の大きさを物語っているようだった。

「上から八十八、五十五、八十五か。私のサイズって八と五ばかりなんだ」

 浮かんだ乳房を両手で救い上げ、玩具のように弄んだ海十は両手を頭の後ろに回すと、ゆっくりと目を閉じて香帆の記憶を引きずり出した。
 男性経験は大学に入ってから。結構イケメンな男だったが、二股を掛けられていたようで自ら身を引いた。次の男は女友達からの紹介だ。別に悪い人ではなかったので何気なく付き合い、体を許したのだが愛するまでには至らず、別れてしまった。今は三人目となる男性と付き合っているようだ。今回は香帆の方から積極的にアプローチしている。何と二つ年下の男性。海十と同い年だ。
 そして海十との関係。平治が言っていたように、海十には好意を持っている。ただし、それは姉弟としての好意であって、恋愛に繋がるものではない。今付き合っている彼と海十を重ねて見ているようだ。
 更に、海十が気にしていた事。実は数ヶ月前、部屋で自慰しているところを香帆に見られてしまったのだ。香帆は「あっ……ご、ごめんね」と、すぐに扉を閉じて自分の部屋に戻って行ったのだが、一体どう思っていたのだろうか?
 香帆の中にも、海十の自慰を見てしまったという記憶があった。ただ、海十を不潔だとかいやらしいとか思っているのではなく、それが高校男子の姿だと割り切っているようだ。

「そっか。姉貴は別に何とも思ってなかったんだ。よかった……」

 他人の記憶が分かると言うのは素晴らしい。香帆の体に乗り移った甲斐があったというものだ。海十はしばらくの間、香帆の記憶を探検した。

「ふぅ、のぼせそう」

 すっかり肌が赤くなった香帆は、プラスチックの椅子に座ると石鹸を手に付け、胸を弄り始めた。滑る掌で乳房が踊る。そしてまた乳首が硬く勃起した。

「んんっ。姉貴の胸……すげぇ気持ちいい。俺の体と全然違うよ」

 その敏感な感覚に、頭を右斜めに倒して吐息を漏らす。
 香帆の切ない声がバスルームに響くと、海十は姉を犯していると錯覚した。

「でも……姉貴の体でオナニーしても、やっぱり俺が姉貴を犯していることになるんだよな。俺が姉貴の体を動かしているんだから」

 両手で八の字を描くように胸を揉みあげる。乳首だけではなく、乳房を揉んでも気持ちがいい。これが女の体なのだ。
 
「すごく柔らかくて……はぁ。今までお風呂でオナニーなんかしたことないのに。ごめんな姉貴……ふぅ、はぁ。俺、ここで姉貴の体をイカせたいんだ」

 石鹸が染みることを知っている香帆の手が洗面器のお湯で洗われ、肩幅ほどに開いた股間に忍び込む。陰唇に中指がめり込むと、「んっ」と鼻に掛かった大人の声が漏れた。

「姉貴……。ここ、すごく気持ちいい。姉貴のクリトリス……。姉貴はこうやって皮を剥いてしごくんだ。あっ、はぁ。ああ……脳みそが蕩けそうだ」

 女性のオナニーを知っている香帆。男性として初めて経験する海十。記憶から、どれほど感じるのかは分かっているが、その記憶と実体験には差がある。いくら香帆がオナニーに慣れているとはいえ、海十は記憶で補えない快感に戸惑い、鼓動が高鳴るのだ。
 幽体になって弄ったときのようにクリトリスを刺激する。そして乳首を摘み、こねくり回した。

「ああっ。す、すげぇ……姉貴の体、こんなに感じてっ!男のオナニーより全然気持ちいいっ。ち、乳首が痺れるっ」

 香帆の声で隠語をしゃべることにも興奮する。現実にはあり得ないのだから。香帆自身も彼氏の前で口にしたことは無い。それを意図も簡単に言わせてしまうのだから、興奮するなと言う方がおかしい。

「あっ、あっ。初めて聞く姉貴の喘ぎ声っ……た、たまんねぇ。あん、あんっ、いいっ、いいよ海十。感じるっ、海十が姉ちゃんの手を使って弄るから、すごく感じるよっ」

 クリトリスを弄っていた中指が膣内に侵入し、肉棒のように動く。一本から二本、そして三本が膣内に入り込んで掻き回す様に刺激を加えた。香帆自身のオナニーから逸脱し、暴走する海十の成すがままに操られている。
 欲望――性欲が海十を突き進ませていた。

「あうっ、あっ、あんっ。Gスポットすげぇっ!ち、乳首サイコー!あ、姉貴っ……はぁ、はぁ、あっ、ああっ。姉貴ぃ〜っ」

 バスルームに響く香帆の喘ぎ声。狂ったように快感を貪る海十は、オーガズムに達する香帆の体から女性の神秘を受け取った。

「う、うあっ!来るっ!姉貴っ……すげぇ、すげぇ。イッちまう。姉貴の体でイッちまうっ!あ、ああっ、あ、あ、あ、あああっ。イクッ、イクッ……イ……んあああっ!」

 ビクッ!ビクンと体を震わせ、椅子から落ちて尻餅をついてしまった。それでも天井を向いたまま、パクパクと口を開いてオーガズムを感じた海十は、表現しようのない感覚に放心状態となり、虚ろな瞳で天井を見つめるだけだった。