白い半袖に、紺色の襟元には白いストライプが二本。その襟元には赤いスカーフがついている。
セーラー服を着て外出するなんて、とても懐かしい感じ。
七年前まではセーラー服が普段着のようなものだったのだから。
それに、千夏の髪から漂うリンスの香り。
いつもなら香水を付けて出社する明菜にとって、リンスの香りだけが体から発するというのは新鮮でもあった。
俯くと、セーラー服を盛り上げる二つの胸。
歩くたびに揺れる乳房の感じからして、もしかしたら明菜よりも大きいかもしれない。
別に妹に嫉妬するわけではないが、大きな胸が好きな真二が見たらどう思うだろう?

千夏と真二は全くの初対面ではない。
真二が明菜の家に来た時に、たまたま顔を合わせた事があった。
その時、千夏は私服だったため、セーラー服姿の千夏と顔を合わせても覚えていないかもしれない。
「真二、私の姿を見てどんな顔するかしら?少しからかってみようかな」
デートをする約束はしていたものの、千夏の体を借りているとは言っていない。
いきなり目の前に千夏が現れたらどんな対応をするだろうか?
明菜は真二の行動に少し興味があった。
「うふふ。最初は秘密にして合おうかな」
千夏の顔でクスッと笑った明菜は、ポーチの財布から自分の定期を取り出し改札口に通すと、快速と普通電車を乗り継いで真二が待っている駅に辿り着いた。
ちょうど駅前にある噴水が、車を持っていない二人がいつも利用する待ち合わせ場所なのだ。
「いたいた。クスッ、どんな反応するのかしら」
噴水の向こう側に、白い半袖ポロシャツと青いジーンズを穿いた真二の立ち姿が見える。
明菜は千夏が穿いている紺のプリーツスカートの裾を揺らしながら、気づかない真二に近づき、声を掛けた。
「ねえ、お兄さん?」
「えっ、俺?」
振り向くと、セーラー服を着た可愛い女子高生の姿。
真二は一瞬戸惑った。
「うん。ここで何してるの?」
「あ、ああ。人と待ち合わせをしているんだ」
「ふ〜ん。待ち合わせって誰と?」
「えっ。べ、別に君に話す必要はないだろ」
「いいじゃない、教えてくれたって」
「どうしてさ」
「私、暇なんだ。だからお兄さんに遊びに連れて行って欲しいな」
明菜は、普段使わないような女子高生風のしゃべり方で真二と話した。
真二からすれば、セーラー服を着た女子高生に話しかけられているとしか思えない。
下からニコリと微笑み、見上げる千夏。
そのセーラー服に包まれた胸に視線を向けつつも、すぐに逸らす仕草が明菜には笑えた。
「俺、援交とかには興味ないんだ」
「そうなの?お金とかいらないんだけど」
「……か、彼女だよ。彼女と待ち合わせしているんだ」
「そうなんだ。ねえお兄さん。私と彼女ならどっちを選ぶ?」
後ろで手を組み、わざとらしく胸を突き出した千夏の姿に真二の鼓動が高鳴った。
良く分からないが、大好きなセーラー服を着た女子高生が自分と遊んで欲しいと言っている。
非常に魅力的な話だ。
真二の頭の中で、明菜とセーラー服を着た可愛い女子高生が天秤に掛けられた。
その結果――。

「あのさ。俺、彼女と結婚するつもりなんだ。だからそんな不純なことは出来ないよ」
「……私と付き合ってくれたら、セーラー服姿で色々なことをしてあげるのに?」
「えっ?」
「お兄さんがして欲しいって言うことなら何でもね!」
軽くウィンクをしながら更に真二に歩み寄り、胸と胸が接するくらいに近づいた。
魅力的なセーラー服が目の前にある。
しかも、自分の思い通りにしてくれるなんて。
ぎゅっと拳を握り締めた真二は大きく深呼吸した後、口を開いた。
「き、君の気持ちは嬉しいけど、やっぱり俺は彼女を裏切ることは出来ないよ。だから……ごめんな」
そう言い切ったのだった。
「……そう。そうなんだ」
「ああ。だから……あっ!」
「私、すごく嬉しいよ」
人が行き交う駅前の噴水で、千夏が真二に抱きついた。
その力強い抱きしめ方に真二がよろけた。
「お、おいっ。ちょっと!」
こんなところを明菜に見られたら――。
考えるだけでも恐ろしい結末になりそうだ。
真二は慌てて千夏を引き離そうとした。
「た、頼むから離れてくれよ。彼女に見られたらどうするんだ」
「大丈夫。もう彼女は来ているから」
「えっ!ど、何処にっ!」
その言葉に、真二は青ざめて周りを見渡した。
抱き合う二人を見ている人たちはいたが、明菜の姿は見当たらない。
「ここ。ここにいるの」
「えっ?」
「私よ、私が明菜なの」
「……はぁ?」
「ごめんね、騙したりして。真二の気持ちをちょっと知りたかったのよ」
抱きしめた腕はそのままに、千夏が顔を上げ真二を見つめた。
「ど、どういう事だよ。君は一体……」
「覚えてない?私の家に来た時に合っているのよ。妹の千夏」
「千夏?千夏って……明菜の妹の?」
「そう。私、千夏の体を借りているの」
「そうか……。そう言えば明菜の顔に似ているような感じがするな。思い出したよ、千夏ちゃんだ」
「うん」
「で、でも。一体どういうことなんだ?」
「うふふ」
ようやく真二を解放した千夏は、二人して近くのベンチに座った。
二十七歳の男性と、セーラー服を着た女子高生が妙に近づいて座っている。
周りの人からは、あまり良い印象に見えないらしい。
ヒソヒソと話しながら通り過ぎるおばさん達には、援助交際している様に見えるのだろう。
「実はね、PPZ-4086っていう薬を使って千夏の体に乗り移ったのよ」
「の、乗り移った?」
「ええ。だから今、千夏の体は私が支配しているの」
「嘘みたいな話だな」
「私も最初は嘘だと思っていたの。でも実際にこうやって千夏の体を操っている。私自身、信じないわけには行かないわ」
「でも、俺から見れば千夏ちゃんが明菜のフリをしているようにも見えるんだけど」
「でしょうね。真二がセーラー服姿の私を見たいって言ったでしょ。私はもう二十五歳だし、コスプレするみたいで嫌だった。でも妹の千夏ならば高校生だし、別に問題ないと思って」
「……俺のために?」
「だって、会社でしつこくせがむんだもの」
「そ、それは……」
「セーラー服が好きだからでしょ」
「あ、ああ。ほんとに……明菜なのか?」
「ええ。何なら会社に入る扉のパスワード番号を教えてあげましょうか」
「パスワード番号を?」
「1322957」
「……そ、そうだ」
「信じた?」
「……す、すごいな。ほんとに明菜なんだ」
「やっと信じてくれたんだ。でもね真二。この薬の効果は五時間しかないのよ。私が千夏に乗り移ってから、もう一時間くらい経っているの。薬が切れる前に家に帰りたいからあまり時間がないのよ」
「そうなのか。じゃあ早速……と言っても正味、二〜三時間ってところだな」
「そうね。こんなに近くでセーラー服が見れたから満足した?」
「いや、もっとじっくりと見たいんだ」
「ちょっと変態っぽい目になってるわよ」
「あっ。いや、そういう風に取るなよ」
「冗談よ。私も折角千夏に乗り移ったんだから、もう少し楽しみたいわ」
「楽しむって?」
「自分の体じゃないのよ。声も違えば体つきも違う。それに高校生に戻れたんだから」
「高校生になって楽しみたいと言うことは……もしかして援交とか?」
「馬鹿ね、どうしてそうなるのよ」
「だ、だってさ。最初に話しかけてきたとき、そんな風に話したじゃないか」
「あれは真二を試すために言っただけじゃない」
「そうか……俺の気持ちを試したんだったな」
「……だからごめんねって謝ったでしょ」
千夏は立ち上がると、真二の前でくるりと回った。
プリーツスカートの裾が広がり、女子高生の太ももが露わになる。
真二は黙ってその様子を見ていた。
「大事な妹の体なんだけど、真二がもっと見てみたいなら」
「……えっ」
「少しだけなら」
「す、少しだけなら……何だよ?」
少し顔を赤らめた千夏の言葉に、真二が食いついた。
「ふふ、ねえ真二。今から会社に行こうよ」
「か、会社に?」
「今日は誰も来ていないでしょ」
「そ、それはそうだけど」
「歩いて行ける距離だし。ねっ」
白い手を差し出された真二は、ドキドキしながら握り返した。
その柔らかい掌を感じつつ、ゆっくりと立ち上がる。
「セーラー服を着た女子高生と手をつなぐの、どんな感じ?」
「……ああ。嬉しいよ」
「そう。私、そういう素直な真二が好きなの」
今度は真二と腕を絡めた。
セーラー服の胸が真二の二の腕に当たり、その温もりと柔らかさを感じることができる。
「ま、まずんじゃないか?その姿でこんな事するの」
「援交に見えるかしら。でも別にいいんじゃない?付き合っている事には変わりないんだから」
「お、俺は……いいけど」
「じゃあこのまま行きましょ!お兄さんっ」
「おいおい」
顔を赤らめた真二は、たどたどしい足取りで千夏に乗り移った明菜と会社へと歩いていった。