コンコン

ガチャ……



「先生。お待たせしました」
「連れてきたのか」
「はい。そこに置きますね」
「ああ」

今日も例によって、古川は数人の男を連れて直登のマンションに訪れていた。
大きな布袋の口を開け、中からぐったりと力の抜けた若い女性を取り出す。

「どうですか?今度の女性は?」
「ああ、そうだな。気に入ったよ」
「先生がご希望だった巫女ですよ」
「緋袴にシワが出来てるな」
「すいません。でもこうやって運ぶしか……」
「ああ、分かってるさ」
「それでは……」


超霊能力の男(霊能力対決)







120万円の小切手を受け取った直登は、ゴロンと寝転がっている巫女装束の女性をじっと眺めた。
気を失っているようで、ピクリとも動かない。

「彼女が霊能力の強い巫女なのか?」
「はい。そうです」
「そうは見えないがな」
「気絶しているからじゃないですかね。私には分かりませんが、起きたらすごいんじゃ……」
「じゃあ起こせ」
「え……」
「これじゃあ、あまりにつまらなさ過ぎる。簡単に憑依出来そうだからな」
「で、でも……」
「いいから起こせよ」
「は、はい……」

少し戸惑いながら、巫女装束を着た若い女性を起こし始めた。
古川にとっては、起こさない方が早く事が運ぶので楽なのだ。
いや、楽というよりは、早く「楽しめる」と言った方がいいだろうか。
長い黒髪を後ろに束ね、薄く化粧しているその女性はとても清楚に見える。
その女性の肩を両手で揺さぶった古川。

「おい、起きろ。こらっ!起きないかっ!」

少し大きな声を出しながら、古川は更に何度か肩を揺すった。
すると「ううん……」と小さくうめいた後、彼女は目を覚ましたのだった。

「彼女の名前は唐陀 稟(とうだ りん)です。今年19歳になります」
「ん……こ、ここは……」
「お前は知らなくてもいい」
「だ、誰?私、一体どうして?」
「俺がお前を連れてくるように頼んだんだ」
「あ、あなたは?」
「……俺は直登。お前が強い霊能力を持っていると聞いてな。俺と勝負させようと思ったのさ。いや、してやろうと思った……と言った方が正しいか」
「な、何を急に……」
「俺は超霊能力の持ち主だ。お前の霊能力を明らかに上回る力を持っている。お前に憑依して、淫らな行為をさせる事だって出来るんだぞ」
「な……あ、あなた何を言ってるんですかっ!」

直登の一方的な言葉に、稟の表情がキッと引き締まった。
小さな手で拳を作って震わせる稟。
その鋭い彼女の視線を、古川も横でじっと見ていた。

「どうだ?俺と勝負しないか?そうだな。俺が負けたら100万、いや、200万でもくれてやる。でもお前が負けたらその身体で……分かるだろ」
「何をバカな……そ、そんな話に乗るもんですかっ!ここは何処なの?私、帰りますっ!」
「おっと、そうは行かない。ここは俺の部屋だ。お前の自由にはさせないさ」
「どいて頂戴っ!」
「おいっ、古川」
「はい」
「あ、ちょ、ちょっと!は、放してよっ!い、痛いじゃないのっ!」
「大人しくしろよ。ほら、よく見ていろよ。先生が能力を発揮するから」
「そんなこと関係ないで……えっ」

直登は座禅を組み、精神統一を始めていた。
その異様なまでの強力な霊能力に、稟は思わず言葉を失った。

「静かにしろよ……」
「な、何……この霊力。つ、強い……。あっ。で、出てきた……」

どうやら直登の幽体が見えるようだ。
稟はグッと唇を噛締めると、直登の身体から出てきた幽体をじっと見つめた。
幽体となった直登も稟を見つめている。

(どうやら俺の姿が見えるようだな。さすが霊能力の強い巫女だ)

直登は稟から少し離れたところで浮いている。

「こんなに強い霊気は初めて……」

後ずさりしながらも、じっと直登の幽体を見ている稟。
身の危険を察知したのか、稟は白衣の袖から数珠を取り出し、直登の幽体に向けて構えた。
(ふんっ!俺の霊能力を感じてやる気が出てきたようだな)

ニヤリと笑った直登の幽体。その幽体を見ながら、稟は数珠に念を込めた。
そして、

「ハッ!」

その掛け声と共に、古川には見えない気砲のようなもの数珠から出し、幽体の直登に向かって放ったのだ。
しかし、それをひょいとかわした直登。

「ハッ!ハッ!ハッ!」

気合と共に、幾つもの気砲が直登めがけて飛んでゆく。
しかし、直登はハラリとかわし、時には手で受け止めてしまった。

「そ、そんな……」

(その程度のものなんだよなぁ。やっぱり俺の方が断然強いか。こんな事をいつまで続けていても仕方が無い。そろそろ反撃するとするか……)

「あっ……ど、何処に行ったの!?ど、何処よっ!」

不意に消えてしまった直登の幽体。
古川を見ても、知らん振りをしている。まあ、彼には元々見えないのだが。
稟の周りに、重い空気が淀んでいる感じ。
必死に首を動かし、直登の幽体を探す稟だったが……

「一体何処にっ……えっ……やっ……な、何!?」

数珠を持っていた稟の手が無意識の内に動き出し、床に落としてしまったのだ。

「あっ……ま、まさか……」

稟の顔が青ざめる。
どうやら自分でも気づかないうちに、直登に憑依されてしまったのだ。