自分の部屋に戻った裕介は、早速カバンからラッピングされた2つの箱を机の上に取り出した。
どちらもかわいいリボンが結ばれている。
椅子に座って大きく息を吸い込んだ後、まず女子生徒からもらった小さな箱から開けてみた。箱の中には、ハート型の小さなチョコレートが数個入っていて、小さく織り込まれた白い紙も同梱されていた。

「ん?これは」

心なしか震える手で、破かないようにゆっくりと紙を広げると、そこには女の子の可愛らしい文字が綴られていた。
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加美野 裕介様

初めて見たとき、胸がキュンとなりました。
それからずっとあなたのことを見ていました。
どうしてもこの気持ちを伝えたくて。

……好きです。

私と付き合ってください。

すぐにお返事をもらおうとは思っていません。
1ヵ月後。
ホワイトデーのときに聞かせてください。

1年C組 長谷下 のぞみ

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「…………」

無言で紙を握り締めていた裕介。
どのくらい経っただろうか?

「僕の事、好きだって……」

モテた事がない裕介にとっては、衝撃的な文章。
「好き」なんて言葉、全く縁がなかったのに。

「は、はは」

半分笑いながら手紙を読みかえす。
何度読んでも手紙には、のぞみの「好きです」という言葉が可愛らしく書かれていた。

「何か夢みたいだ」

手紙を綺麗に折りたたみ、机の上に置いた。

「あの娘、可愛かったなあ。のぞみちゃんて言うのか」

今朝会った彼女を思い出す。
肩にかかるくらいの短いストレートの黒い髪。
少しもすれてない可愛らしい顔。
学校の規律を守っている膝上までの紺色スカートの下には、細くて白い足が見えていた。
「でもなぁ。僕が付き合うような子じゃないとおもうんだけどなあ」

自分の容姿に自信がない裕介は、横に並んで歩いたときを想像していた。
背は裕介の方が10センチは高いけど。
でも、やっぱりしっくりこない。

「何か申し訳ないなあ」

色々考えているうちに、机の上に置きざりにしていたくるみの箱を思い出した。

「そうだ。くるみにももらったんだ」

早速リボンを解いて包装紙を外し、箱を開けてみた。
中には大きなハート型のチョコレートと、かわいい封筒が入っていた。
チョコレートは市販のものではないらしい。
ちょっと歪な形がそれを物語っている。

「……これって手作りだよなあ」

そんなチョコを見ながら封筒を開けて、手紙を読んでみた。




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裕介へ

あのねっ、実はさっ。私、裕介の事好きだったりするの。
いっつも意地悪してるけどね、あれ、私と話をしてほしかったからなんだ。
だって、ああでもしないと裕介ったら全然相手にしてくれないんだから。
他の子は裕介の事、全然魅力ないっていってるけど、私はそんな事ないと思うの。
そりゃ、へにゃへにゃしてて頼りないけど、ほかの男子にはない優しさがあるもんね。

だから……。

好きだよ!裕介。

裕介は私の事、どう思ってるの?
意地悪な女だと思ってるでしょ。
でもね。ほんとは違うって事、知って欲しいの。
ねっ、私と付きあってよっ!

すぐじゃなくてもいいの。
1ヵ月後、そう。ホワイトデーの時にいい返事を聞かせてよ。
待ってるからね!

くるみ

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「…………」

またしても裕介の時間が止まる。
予想もしていなかったくるみの手紙。
よく理解できない。

「これって……僕の事、好きだっていうこと?」

今年はついているのか、いないのか。
戸惑いを隠せない裕介は、机に置いている鏡に目を向けた。
ボーっとだらしない顔が映っている。
しかし、その後ろにもう一人の顔が映っているのが見えた。

「うわっ!」

驚いた裕介は、椅子からひっくり返って尻餅をついてしまった。