「大丈夫か?目の下にクマが出来てるみたいだけど」
「うん、大丈夫。気にしないで」
「無理だったろ?ピアノ」
「ううん。弾けるようになったよ」
「マジで!?」
「うん。だから任せといてって言ったじゃない」
「でも、たかが一週間で弾けるようになるなんて……」
「随分練習したんだからね」
「……なんか、嬉しいな。俺のためにそこまでしてくれるなんてさ」
「へへ、約束したから。私、約束破るの大嫌いなんだ」
「だな。前からそうだった」
「うん」
「それにしても、今日はいつもと雰囲気が違うよな」
「そう?」
「ちょっと大人びてるって感じ。服のせいか?」
「あ、うん。そうかも……ね」
「そんな服、持ってたんだ」
「えっ、あ、いや。そうじゃなくて、啓子姉に借りたんだ」
「そうなんだ。マジで大人びて見えるよ」
「そ、そうかな。あはは……」

優二の誕生日。
二人は昼前に駅前にある噴水の前で待ち合わせをしていた。
そのまま近くのファミレスで昼食をとり、映画を見たりカラオケに行ったり。
一通り遊んだ夕方、ショートケーキの入った小さな箱を片手に、いよいよピアノ演奏をプレゼントするために亜樹の家へと向う。

「亜樹のお姉さん、今日は家にいるのか?」
「ううん、いないよ。ピアノ教室があるから帰ってくるの、遅いんだ」
「へぇ〜。一度会ってみたかったな」
「そうなんだ」
「亜樹に似てるの?」
「う〜ん。似てると言えば似てるかな。五歳離れているから、私よりも大人びているけどね」
「そっか。そんな服を持っているくらいだからな」
「ま、まあね」

普段はプリントTシャツにジーパンといったラフな格好の亜樹だが、今日は白いブラウスに膝が見えるくらいの、グレーのタイトスカートという亜樹には珍しい服装だった。
タイトスカートの下に見える、パンストに包まれたほっそりとした足。そして黒いパンプスは、高校生の亜樹にしては十分すぎるほど大人の【色気】を漂わせていた。
おそらく、優二の誕生日だからそういう服を着てくれているのだろう。
優二はそんな風に思った。