「ど、どういう……事?」
「すごいだろ。今度は……」
「きゃっ!」

里香は、その光景を見て思わず後ずさりした。
目の前で道夫の下半身が消えたのだ。
上半身だけで浮いているように見える。

「どういうわけか、こんな事が出来るようになったんだ。身体を別の次元に隠すことが出来るようにね」

その言葉が終わったあと、里香の前から道夫の姿が消えた。

「ええっ!?やだっ……み、道夫?ど、何処にいるの?」

辺りを見回す里香の両肩に、いきなり手が添えられた。

「きゃあっ!」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」
「やだっ!放してっ!」
「り、里香っ」
「放してっ!!」
「あっ……」

突如、後ろに現れた道夫に、里香の顔が青ざめた。
それがよほど怖かったのか、里香は道夫の手を無理矢理引き離すと転げるように逃げ出した。
その走り去る後姿をじっと見つめる。

「そんなに怖がらなくてもいいのにさ。それに何処に逃げたって一緒だし。こうなったら俺の言うとおりになるまで里香に嫌がらせをしてやる」

フッと笑うと一瞬にしてその場から姿を消したのだった――。



――そして里香の家。

「か、勝手に家に……部屋に入り込まないでっ!」
「いいだろ。前はよく入れてくれたじゃないか。セックスはさせてくれなかったけど」
「は、早く出て行ってよ。警察を呼ぶわよっ」
「どうぞご勝手に。警察でも誰でも呼んでくれていいよ」
「…………」

里香にも分かっていた。
誰を呼んでも、道夫はすぐに隠れてしまう。
誰にも見えない世界に。

「気持ち良かったのか?あいつとセックスして」
「……どうしろって言うのよ」
「別に。俺が里香といたいだけなんだから」
「だから私、仁志とは別れられ……」
「いいって、別れなくても」
「えっ?」
「里香がそいつと別れようが別れまいが、俺はしばらく里香と一緒に過ごすだけなんだからさ」
「そ、そんな。勝手な事を決めないでよっ」

「何大きな声を出してるの?」

二人の会話に、一階から母親の声が割り込んできた。

「う、ううん。なんでもない」
「そろそろご飯が出来るから降りてきなさい」
「うん」

里香は道夫をきつい目で睨むと、「早く出て行って」と言い捨て部屋を出ていった。

「出て行くはずないだろ。無理矢理にでも俺のものにしてやる」

今の心を現すかのような憎憎しい笑いを浮かべた道夫は、また姿を消した。