全身がバラバラになるかと思うくらいの重傷を追った男性がその痛みと引き換えに手に入れたのは、この世のものとは思えない……いや、ありえない不思議な能力だった。

その能力に気づいたのは、退院してから一週間ほど経ったあとだ。
大学で会いたくない友達がいて、そいつから逃げようとしたとき、初めてその能力が発揮された。
まだ痛む足で、必死に走って逃げた曲がり角。

(消えてしまいたい!)

そう願った彼の想いは遂げられた。
彼の存在がその場からフッと消え、透明人間の様に見えなくなってしまったのだ。
彼を見失った友達は、不思議そうに別の場所へと走っていく。
何がどうなったのか分からない彼だったが、時間と共にその能力がどういうものかを把握していった。


姿身の前で映る彼の姿。
最初は全身が映っていたのだが、不思議な事に上半身だけが宙に浮いているように映った。
下半身は姿見に映っていないのだ。
そうかと思うと、今度は首から上しか映っていない。
更には、足だけ。手だけ、そして男の象徴だけという風に、彼は身体の存在を自由に変化させる事が出来た。
透明人間になっているわけではない。
消えている部分の存在がなくなるのだ。
まるで、消えている部分は四次元の世界に隠されたかのように。
だから、身体が完全に見えなくなるという事は、この三次元の世界に存在していない事になるのだ。

彼はこの能力を使って、嫌いな友達への仕返しを行った。
友達が歩いている最中、足だけを出して転ばせたり、拳だけを出して後ろから殴ってみたり。
講義を受けている最中に脇をこそばして笑わせたこともある。
一通りの仕返しを行った後に気づいた事。
それは、予想外の場所に姿を現せるという事だった――。