「そうやって甲板の上で走り回らないでよ。鬱陶しいじゃない」

天候も回復し、穏やかな日差しが降り注ぐ。
ナミは操舵室の前にある踊り場で、潮風を心地よく浴びていた。甲板の前ではゾロがやたらと重たい鉄ハンマーを振っている。その横では、サンジがプカプカとタバコの白い煙を吐いていた。

「ナミさん、次の島までどのくらい掛かるんだい」

サンジがナミを見上げながら問いかけると、「そうね、あと五日間ってとこかしら」と答えた。

「へぇ……あと五日間か……ったく……あいつら食いすぎなんだよ……」

ナミの回答に、少し曇った表情をしたサンジ。
五日もすれば新しい島に着く事が出来る。新鮮な食材も手に入るというわけだ。
腕は超一流でも、食材が無ければどうしようもないのだ。サンジはタバコを吸い終えると、キッチンへ残りの食材を確認しに歩いて行った。

「さて、私も進路の確認でもするかな」

ナミも操舵室の前にあるドアから船の中へと入ると、潮風で少しベトついた身体を拭くために自分の部屋へと戻って行った。
ドアノブを回して部屋に入ったナミ。自分の部屋だけ、やけに綺麗に飾っている。窓には黄色いカーテンをつけ、衣装タンスやベッド、テーブルなどが置いてあった。

「あ〜あ、島に着いたら真っ先にあったかいお風呂に入りたいわ」

水で塗らしたタオルで顔を拭くと、次に腕を拭き始める。冷たいタオルが潮風でベトベトした肌に気持ちいい。さっぱりした顔つきでテーブルの上にタオルを置いたナミは、操舵室へ戻ってログポースで進路の確認をしようと部屋を出ようとした。

「んっ?」

何となく人がいる気配を感じたナミ。振り返って部屋の中を見回す。

「……誰もいないわよね」

部屋には鍵を掛けているので誰も入る事は出来ないはず。
気のせいだと思ったナミは、また部屋を出ようとドアの前まで歩いて行った。
だがその時、何故かゾクゾクと背中に悪寒が走り、急に息苦しくなり始めたのだ。

「えっ!?あっ……な、何?……う……くはっ!」

身体が重たくなった感じがして、たまらずその場に膝をついてしまう。はぁはぁと苦しそうなナミは、両手を床の上について四つん這いの格好になった。

「く、苦しい……や、いやぁ……だ、誰か……た、助け……」

か弱いナミの声は、部屋の外へ漏れる事は無かった。片手で胸を押えながら、はぁはぁと大きく息を吸い込む。ナミには全く見えないが、背中から姿の見えないウソップが身体の中に入り込もうとしていたのだ。

「ニヒッ、わり〜けど仕返しさせてもらうぜ、ナミ〜」

ナミには聞こえないウソップの声。半透明なウソップの身体が、独りでにジワジワとナミの背中に入り込んでゆく。

「うああ……や、やだ……あ、あ、あ……うぅ……」

息苦しさと共に、意識が薄れ始める。目の前に見えていた部屋がだんだんと白くなり始めると、ついに何も見えなくなってしまった。

「う……うう……」

無意識のうちに目を細めたナミは身体を支えていた左手の力が無くなり、前のめりになって床に倒れこんでしまった。
その瞬間、ウソップがナミの身体に入り込んでしまったのだ――。




「う……んん……」

指がピクンと動き、ゆっくりと瞼が開く。そして、目の前に広がる床をキョロキョロと見た。視界の中にオレンジ色の髪が揺れている事を確認したナミは、ニヤッと笑うと嬉しさを噛締めるように立ち上がった。

「ウソップ様の事が大好きなのに……」

それが第一声。ウソップ様なんて言葉を口走るはずがない。ゆっくりと衣装タンスの横に置いてある姿見の前まで歩いたナミは、その場でブーツを脱いで正座した。

「ああ、ウソップ様、ごめんなさい。私はいつもひどい事を言ってウソップ様を貶(けな)していました。もう二度と言いませんから許してください」

ナミは鏡の中にいる自分に向かって謝ると、深々と頭を下げた。
そしてゆっくりとあげた顔は、まるでナミとは思えないほどいやらしい笑い顔になっていたのだ。嬉しそうに拳を握ってガッツポーズをするナミ。その後、一転して寂しそうな、いや、切ない表情になった。

「はぁ……私、ウソップ様の事が大好き……この身体を自由に使ってもいいの。ねっ、大した身体じゃ無いけど、私の身体で好きな事して」

正座していた足を崩し、胡座をかく様に股を開ける。短いオレンジ色のスカートの中から、青いパンティが顔を覗かせているのが鏡越しによく見える。その青いパンティに視線を集中したナミはニタッと笑った。

「ふ〜ん、私ってこんなパンティ穿いてるんだぁ」

もちろんその言葉は、ナミに乗り移ったウソップが言わせているのだが――。

ナミは胡座をかいたまま上半身を前に倒し、Vネックの襟元をクイッと引っ張った。
鏡に映るVネックの襟元には、これまた青いブラジャーに包まれた大きな胸が見えている。その谷間が何ともセクシーだ。

「あ〜ら、私ってこんなに胸があったのかしら?」

しらばっくれた台詞を吐きながら、ナミはもう片方の手で胸をギュッと掴んだ。心地よい柔らかさを手のひらに感じる。そして、大きな瞳をギラギラさせながら、何度も胸を揉んだ。

「こうやってウソップ様に胸を揉んでほしかったわ」
【よしっ、そこまで言うなら仕方が無いから揉んでやろう!】

ウソップはナミの声を使って一人芝居をした。鏡に映るナミの表情が刻一刻と変化する。それは端から見ていると滑稽に思えた。

【はぁ、はぁ、はぁ……どうしたんだナミ。息が荒くなってるぞ】
「だってウソップ様が……私の胸を激しく揉むんだもの」
【そんなに気持ちがいいのか?】
「ウソップ様だって気持ちがいいんでしょ」
【当たり前だろ〜が。こんなにデカくて柔らかい胸を自由に揉めるんだからな】

ナミはウソップによって操られ、その手は胸を揉み、スカートの中に見える青いパンティにまで伸びようとしていた。
だが、その時――



トントン……



「ナミさん、いるのか?」
「…………」


ドアの向こうから男の声が……それはサンジだった。