(見ろよ志郎!)
(おっ!そういうことか)
(ジャージで練習すると思っていたけど、そうじゃなかったんだ)
(だな)

二人が見ている視線の先には、ジャージを脱ぎ始めた先輩達の姿があった。
ジャージの中から出てきたのは、赤がベースで、脇から白い大きなストライプが縦に二本入ったV首の半袖シャツ。
そして、同じ模様の赤いハーフパンツ。
更には、膝下までの白いソックスだった。
多分練習用のユニフォームなのだろう。
胸元には筆記体で「Terano」という文字がプリントされているが、背番号などは付いていない。

(きっと二年生と三年生がユニフォームを着て、一年はまだジャージしか着れないんじゃないか?)
(多分そうだろ)
(志郎が乗り移る友原亜季ちゃん、すごく似合ってるじゃないか)
(そういう博和が乗り移る友里ちゃんもいいんじゃないか?)
(まあな)

黒いショートカットに小麦色の顔。
二重瞼だから目が大きく見える。
少しだけ鼻が低いように感じるが、唇を少し尖らせながらはにかんだ彼女は生き生きとしていた。
ユニフォームを盛り上げる二つの胸。
そして、ハーフパンツのゴムが締め付ける細いウェスト。
そのパンツの裾から伸びる足は、さほど筋肉質には見えなかった。

一方、友里は少し茶色いロングを束ねて帽子の中へしまいこんでいた。
ほっそりとした顔立ちで雰囲気は博和の妻、有紗に似ているだろうか?
身長も百六十センチくらいで殆ど同じ。
友里に有紗の面影を感じたのかもしれない。
背丈がある分、友原亜季よりもスマートに見えた。

それにしても、ユニフォーム組が七人だとソフトボールは出来ない。
まあ、練習だから別に九人揃う必要は無いのかもしれないが、実際に試合になったらどうするんだろう。
志郎は、そんな事をふと思った。

十三時過ぎ。
ユニフォームを着た女子――キャプテンが全員を集合させた。

「じゃあ準備体操をした後、グランドを五周するから。しっかり身体をほぐしてね」
「はいっ」

キャプテンの言葉に、皆ペアになって柔軟体操を始めた。
亜季と友里はペアになっている。

(志郎。そろそろじゃないか?)
(そうだな。別にソフトボールの練習はしたいと思わないけど、彼女に成り切って練習するのも楽しみの一つだし)
(彼女達、二年生かな?)
(おそらく。三年生ってキャプテンと、キャプテンと一緒に柔軟しているあの子だけかもな)
(そういえば、二人だけ雰囲気が違う感じがする)
(三年生が二人。二年生が五人。一年生が八人か)
(じゃあ三年生に乗り移ればこの女子ソフトボール部の女の子全員が俺達の思い通りってわけだ)
(でも絶対じゃないし)
(……まあな)
(別にあの二人でも構わないんじゃないかな?三年生の二人より好みだし……っていうか、あの二人なら成り切れるよな)
(ああ)
(じゃあ亜季ちゃんと友里ちゃんに)

やっと乗り移れると思った博和のテンションが妙に高くなった。
スッと友里に近づくと、志郎を手招きしている。

(……ったく。俺まで興奮してきたじゃないか)

志郎はニヤニヤ笑っている博和の下に寄ると、目の前で友里に背中を押されている亜季の身体をいやらしい目で眺めた。