駅員の笛を合図に電車の扉が閉まり、ゆっくりと動き始めた。
私服を着た乗客が殆ど。
その中に紺色のジャージを着た女子高生達がスペースを確保した。
目で彼女達を追い、人数を数えてみる。

(六人だな)
(ああ)

通路を挟んで二対四で座っている。
三人ずつ座ればいいのに――そう思った志郎達だが、どうしてそういう人数配分で座ったのかはしばらく会話を聞いていると理解できた。
まあ、よくあることかもしれない。
要は、学年で分かれて座っているのだ。
先輩が二人と後輩が四人。
そう言われれば、二人の先輩は少しだけ大人に近づいた容姿をしているように思える。
とはいえ、言われなければ全員同学年だと勘違いするだろう。
それくらいの違いしかなかった。

先輩二人組みは、スポーツバッグを棚の上に乗せている。
一方、後輩四人組は足元に。
通路を通る人の邪魔になりそうだが、それほど乗客は乗っていないので問題ないだろう。

(なあ志郎)
(なんだ?)
(電車の中って結構辛いよな)
(どうしてだよ)
(だってさ、電車の速度に合わせて幽体を移動させなければならないんだから)
(別に体力使うわけじゃないんだから構わないだろ)
(そうは言っても、油断しているとだんだん後ろに下がっていくし)
(じゃあさっさと乗り移ればいいだろ?)
(だけど六人の女子高生。悩ましいところだよ)
(そうか?俺はもう決めてるけど)
(え?誰だよ)
(そりゃ、先輩の体に決まってるじゃないか)
(どうして?)
(先輩の体なら、後輩がある程度言う事を聞くからな。自由度が高いだろ)
(なるほど。さすが志郎だな)
(左に座っている彼女がいいと思ってる)
(そうか。よかったよ)
(何が?)
(俺は右の女の子が好みだから)
(何だよ。お前も先輩に乗り移るのか?)
(だってその方がやりやすいだろ。二人の先輩が右を向けといえば、きっと後輩達は右を向くと思うから)
(まあな。先輩と呼べる部員が他に何人いるかにもよるけどさ)
(別に先輩の体にとどまる必要ないし)
(だな)

どうやら二人の頭の中には、その上で指揮する先生のイメージがすでにあるようだ。
先生が男性か女性か分からないのに。

(じゃあ志郎。早速乗り移るか?)
(いや、俺はもう少し後にするよ。どういう会話をするのか聞いておきたいし)
(さすが憑依の先輩が考える事は素晴らしいよな)
(普通考えるだろ。いきなり乗り移ったとしても、後輩達とどういう会話をすればよいのか分からないし)
(だよな!俺、志郎のやる事に付いて行くよ。頼むぜ先輩!)
(…………)

こうして二人はしばらくの間、女子高生達の会話や行動を眺めることにした。