「もう行っちゃったの??」

あまりに早い行動に久美は慌てた。
交渉が成立したからって、勝手に行動されては困る。

「まさかもう?」

と呟いたとき、ガチャッと扉が開いて一美が顔を覗かせた。
部屋着に着替えていた一美の手には、赤いパジャマの上下とバスタオル、そして下着があった。

「久美、先にお風呂、入ってくるからね」
「あっ、お姉ちゃん。うん」
「久美も一緒に入る?」
「えっ、いいよ」
「じゃあお先ね」
「うん」

一美はクスッと笑いながら扉を閉めた。

「それよりも琢次郎、何処に……って」

ハッとした久美。

「ま、まさか……今のって!」

急いで扉を開けて階段を見たが、そこにはもう一美の姿はなかった。

「ちょ、ちょっとっ。まさかお姉ちゃんに乗り移ってお風呂に入るわけじゃないでしょうねっ!」

転げそうになりながら階段を下り、脱衣室の扉を開いた。
そこには、まだ普段着姿でコンタクトレンズを洗っている一美の姿があった。
急に入ってきた久美を、一美はビックリした表情で迎えた。

「ど、どうしたの久美」
「お、お姉ちゃん!?」
「な、何よ」
「……お、お姉ちゃん?」
「だから何?」
「えっ……だ、だから……」

一美は怪訝な顔をした後、クスッと笑って

「一緒に入りたかったの?」と尋ねた。

「う、ううん。そうじゃなくて……そうじゃないんだけど」
「だったら何なの?」
「……な、何でもない」
「クスッ、変な久美。服を脱ぐから扉、閉めてくれない?」
「えっ。あ……ご、ごめん」

久美は慌てて扉を閉め、脱衣室を出た。

た、琢次郎……まだお姉ちゃんに乗り移ってないの?

そう思いながら脱衣室を後にした久美。
その頃、脱衣室では普段着の上を脱ぎ、ブラジャーを着けた上半身を鏡越しに見る一美がいた。

「……クスッ」

一美はニタニタといやらしい笑いを浮かべていた――