久美には少し霊感があり、小さい時から幽霊などが見えていた。
中には、今見つめられているよりも恐ろしい幽霊に遭遇した事もある。
そんな久美にとっては、このくらいの事、何とも思わないのであった。
とはいえ、幽霊に睨みつけられながら食べるのもあまり嬉しくない。

久美は食べるのをやめると、じっとその睨みつけている幽霊を逆に睨みつけてやった。
別に幽霊と睨めっこしたかったわけではない。
睨み返せば何処かに消えてくれるかな、そんな安易な考えだった。
そして10秒ほど睨みつけていただろうか?
睨みつけていた幽霊はスッと姿を消した――訳ではない。
眉がピクッ、ピクッと動き出すと、急に表情が変化した。
あの恐ろしい顔つきがウソだったかの様に陽気な表情になり、ケラケラと笑い始めたのだ。

「はぁ?」

訳の分からない久美に、幽霊はしばらく笑い続けていた。
そして、笑い疲れたのか、はぁはぁと苦しそうに息をしながら彼女に近づいてきた。
そこには、おぞましいオーラは微塵も感じられない。

「君、面白いね」
「……はぁ?」
「名前、何ていうの?」
「……み、水原……久美」
「久美ちゃんか、可愛い名前だね」
「……あなたは?」
「俺は石峰琢次郎(いしみね たくじろう)。ここ、座ってもいいか?」
「……うん」

石峰琢次郎と名乗った幽霊は、スポーツバッグの置いてある席に座った。
正確には、スポーツバッグに腰までめり込んでいる状態。
まあ、幽霊だから実態はないので当たり前か。
それにしては、椅子にはちゃんと座っている様子。

「食べなよ。冷めるから」
「……言われなくても食べるわよ」
「クスッ。君ってほんとに面白いね」
「幽霊に面白いって言われてもね……」
「俺のこと、怖くないの?」
「別に。幽霊なんて慣れっこだし」
「だろうね。君って結構霊感ありそうだから」
「…………」

久美は目の前にいる琢次郎と視線を合わさないようにハンバーガーを食べた。
大きなガラス窓が映し出す街道の景色は既に暗く、蛍光灯の白い光を受けた店内が薄っすらと映し出されている。
久美が座っているテーブルも映っているが、琢次郎の姿は映っていない。

「俺、君となら話せると思ったよ」

会話を始めた琢次郎だが、久美は黙々とハンバーガーを食べている。

「うん、食べながらでいいから聞いて欲しいんだ。俺さ……」

別に聞きたいと思っていない久美は無視しているつもりだったが、琢次郎は嬉しそうに身の上話を始めた――