お兄ちゃんが結婚してから一週間。
アタシはまだお兄ちゃんの事が忘れられないでいた。
アタシの大好きなお兄ちゃん。
この前まで一緒にご飯を食べて話をして、じゃれあって――
お兄ちゃんはアタシの事、妹っていう認識しかなかったと思うけど、アタシは違っていた。
お兄ちゃんの事が大好き。
出来ればお兄ちゃんと結婚したい。
ううん、出来ればじゃなくて、絶対に結婚したかった。
でもお兄ちゃんはアタシの前に遙(はるか)さんを連れて来た。

「唯、俺、遙(はるか)結婚するんだ」
「こんにちは、唯ちゃん。お兄さんと結婚する事になった柿沢遙です。仲良くしてね」
「……う、うん」
「何だよ、その挨拶は」
「あっ、ご、ごめん。アタシ、ちょっと用事があるから」
「お、おい唯っ!」
「私、唯ちゃんに嫌われちゃったかな?」
「なんだそれ。どうして初対面なのに嫌われなきゃならないんだよ」
「何となく……だけど」
「思い込み過ぎさ」
「そうかしら」

アタシは思わず二人の前から逃げてしまった。
お兄ちゃん、あんな綺麗な人と付き合ってたなんて――
そんなの、アタシ知らなかった。
全然教えてくれなかったんだもの。
どうして?
アタシがいるのにどうして??
その日、アタシは自分の部屋で目が腫れるまで泣き続けていた――



――お兄ちゃんの結婚式。
白いウェディングドレスを身に纏った遙さんはとても綺麗。
青いロングヘアーが白いドレスの背中を優しく揺れ、大人の雰囲気を漂わせていた。
アタシもあんなに綺麗だったら、お兄ちゃんはアタシと結婚してくれたかな?
ううん。やっぱり兄妹だから無理か――
アタシがお兄ちゃんと兄妹の関係じゃなかったらよかったのに。
そしたらアタシ、お兄ちゃんに猛烈アタックして結婚してたのになぁ。





お兄ちゃんと遙さんは、小さなマンションを借りて二人で住んでいる。
この家で一緒に過ごしたらいいのに。
そんな事も思ったけど、やっぱり新婚さんなら二人きりで住みたいよね。
アタシだって、お兄ちゃんと結婚できたのなら二人きりで住みたい。


うらやましいよ、遙さん。
もしアタシが遙さんだったら、お兄ちゃんと結婚できたのに。
――そうよ、アタシが遙さんだったら――



アタシは考え方がおかしい事、自分でも分かっていた。
それでも――それくらいお兄ちゃんと過ごした日々が忘れられなかった。
月日が経つにつれて、お兄ちゃんへの想いが大きくなっていく。

精神的に耐えられないくらい。

アタシが遙さんだったら――
アタシが――




「この薬を飲めば、その願いは叶うよ」
「ほ、ほんとに?」
「ああ、ほんとさ。ただし、君にこの薬を買えるだけのお金があるならね」
「い、幾らなんですか?アタシ、お兄ちゃんと一緒に過ごせるのなら頑張ってお金を貯めます」
「中学生の君はバイトとか出来ないだろ。それに高いよ、この薬は」
「だから、幾らなんですか?」
「……一粒、5時間の効果で500万円」
「ご……500……万……」
「安い買い物だよ。だって、5時間もの間、君の思い通りになるんだから」
「……500万円……あ、あの」
「ん?」
「アタシ、一生掛けて絶対払うから、先にその薬を下さい」
「それは無理だよ。お金は先に貰わないと。それに中学生の君が500万円貯めるのに何時まで掛かると思う?」
「だ、だから一生掛かっても……」
「僕が待てないよ」
「…………」
「……そんなに欲しいのか?」
「……はい」
「じゃあ……」

その人はアタシに提案してきた。

「タダであげるよ。その代わり……」


――お兄ちゃんと一緒に過ごせるなら――


「わ、分かりました。それで構わないです」
「ほんとにいいのかい?どうなっても知らないよ」
「……はい」
「そっか。そこまで言うなら交渉成立って事で」

アタシはその人から一粒のカプセルを受け取った。
これが500万円の薬――

「その薬を使っていいのは……分かってるね」
「はい。じゃあ早くしてください」
「よし」




――こうしてアタシは意識を失った。
そして、目覚めるまでの5時間分の記憶がなくなった――



目が覚めるとそこは自分の部屋、ベッドの上だった。
とても体がだるい。
乳首がヒリヒリして痛い。
ううん、それよりアタシは――処女を失っていた。


それでも辛いとは思わなかった。
だって、これからアタシは5時間、お兄ちゃんと過ごせるのだから。

――そして日曜日の朝。
一刻も早くしたかったけど、ずっと我慢して待ち続けていたこの時。
今日ならお兄ちゃんも遙さんもマンションにいるはず。

アタシは大事に仕舞っておいたカプセルを口に含んだ――