どれくらい前でしょうか?
ちょっと気合を入れてTSF系の小説を書いてみようと思った時がありました。
偶然入れ替わってしまった高校生の男女が、そのままの体でしばらく生活をするというストーリーです。
元に戻れるかどうかも決まっていませんでしたし、入れ替わった後の展開も全然考えていませんでした。
もちろん、題名も。
ただ、水泳部の二人が入れ替わってあんな事やこんな事をしたら面白いなぁと思って書き始めたものです。
しかし、TS導入部にもたどり着けず、途中で断念。
気合を入れすぎたせいかもしれません。
他のストーリーを書きたくなったからかもしれません。
もう続きは書かないと思いますが、何気に勿体無いのでここに置いておきましょう。
誰かの目に触れ、爆裂脳内補完してもらえるかもしれませんし(^^



少し涼しげな風が吹き始めた、午後五時過ぎの正門前。
校舎の向こうに見える空は、赤く染まった夕焼け雲がゆっくりと漂っていた。
そんなシーンを背景に、短いストレートの黒髪を揺らしながら走ってきた女子高生が一人。
半袖の白いブラウス、襟元についている青いリボン。
紺色で膝小僧が少し見える位、そのスカートからみえる細い足。
そしてピンクのラインが入った白いスニーカー。
肩に掛けた青色のカバンを押さえながら走ってきた彼女は、少し息を切らしながら正門で待っていた男子生徒に声を掛けた。

「ごめん敏彦、待った?」
「いいや、別に待ってねぇよ」
「シャワーが壊れてて1箇所しか使えなかったのよ。それで順番待ちしてたら遅くなっちゃった」
「じゃあ男子のシャワールームを使えばよかったのに」
「え〜、そんなの恥ずかしいよ。でも、ちゃっかり使ってた先輩もいたけどね!」
「へぇ。どのシャワーだろ?明日は俺が一番に使おうかな」
「あ〜、敏彦。今いやらしい事、考えてるでしょ」
「別に〜」
「嘘ばっかり。私にはちゃんと分かるんだから」
「何が分かったんだよ」
「え〜。そんなの言えないもん」
「美代が一人で変なことを考えているだけだろ」
「ち、違うもんっ!」

敏彦の悪戯な問いかけに、美代は少し赤い顔をしながら視線をそらせた。
二人の頭の上にある夕焼け空が、ゆっくりと濃い青に変わってゆく。

最寄の駅までの帰り道。

部活帰りの二人は、たわいもない話をしながら歩いていた。
その歩いている二人の距離は友達ではなく、それよりも深い関係を思わせる。
互いに水泳部のレギュラーとして頑張る高校二年生。
もちろん、実力は男子の敏彦の方が上だが、女子の中ではトップクラスの速さを維持している美代。
『水泳』という同じ趣味を持つ二人は、高校一年の秋から付き合い始めていた。
最初は目立った成績を上げることが出来なかった二人。しかし、ちょうど付き合い始めたころから徐々に頭角を現し始め、二年になった春にレギュラーの座を手に入れたのだ。
髪を刈り上げている敏彦は、身長百八十センチの真っ黒に焼けた筋肉質の体が自慢。美代も、敏彦ほどではないが小麦色に焼けた肌に筋肉のついた体。
だからといって、女の子としての体の丸みは失っていない。
白いブラウスを上下に揺らす胸は、大きいとは言えないがBカップ以上あるだろう。
余分な脂肪を落としたウェストはキュッと引き締まり、小さめのお尻だって可愛らしい。

そんな美代は、もう処女ではなかった。
付き合い始めて半年ほど経ったある日、敏彦と初めて結ばれたのだ。
さすがに初めての時は痛いだけで何の快感も感じることが出来なかったが、大好きな敏彦と結ばれたという幸せだけは十二分に感じることが出来た。
敏彦も、痛みで顔をゆがませる美代に引け目を感じたが、その暖かい美代の膣内は、オナニーという行為では到底味わえない極上の快感を得たのだった。

その後、これまでに数回セックスをした二人。
練習に明け暮れる二人にはバイトでお金を稼ぐ時間もほとんどなく、ラブホテルなんて場所にはいけない――というか、あっても行く勇気がない。
また、休みの日は家に両親がいることが多いので、その機会は稀にしかなかった。
美代は敏彦の家に三度お邪魔したことがある。
そして、敏彦は美代の家に一度だけ行ったことがあった。
どちらも両親が外出して、家に人がいない時。
そして、その時にセックスしたのだった。

互いに、もっとスキンシップを図りたい――そう思っている。
でも、二人の周りの環境がそうさせてくれなかった。

「腹減ったなぁ。なあ美代、ハンバーガーでも食べて行かないか?」

駅前まで歩いてきた二人。すでに空は薄暗くなり繁華街の明かりがやたらに光って見えている。
丁度ファーストフード店の前を通りかかったので、敏彦が黒い制服のズボンのポケットに手を突っ込んで美代に提案したところだ。

「う〜ん、どうしようかなぁ」
「一個なら俺がおごってやるぞ」

そう言って、ポケットから四百円ほどの小銭を取り出す。

「ほんとっ!……ああ、でも止めとくわ。ハンバーガーはカロリーが高いでしょ。太ったらタイムが落ちちゃうもん」
「だったらもっと練習すればいいだけだろ」
「食べないでもっと練習したら、食べて練習するよりもいい結果が出るでしょ」
「うっ……ま、まあな」
「だから今日は止めとくわ。また今度食べようよ」
「……そうか。美代がそういうのなら俺も食べねぇ事にするか」
「クスッ!良かったね敏彦。これで敏彦も太らずに済んだんだし」
「食わなきゃ筋肉、付かねぇよ」
「まあね。でも、家で食べたほうが栄養のバランスがいいじゃない」
「美代の家はな。俺んちはそんな事ぜんぜん考えてねぇから関係ない」
「そんな事ないよ。敏彦のお母さん、ちゃんと考えてくれてるって」
「そうかなぁ。昨日は唐揚げにウィンナー、納豆ご飯って組み合わせだったぞ」
「……そ……そうなの。で、でもそれは敏彦に体力をつけて欲しいからよね。きっとそうよ」
「サラダの一つくらいあってもいいと思うんだけどな」
「……そ、それは……そうよね」

美代は右手でこぶしを作って口元にあて、コホンと一つ咳をすると、

「ま、まあいいじゃない。それもお母さんの愛情よ」

そう言ってごまかした。

「愛情か。まあ、食わしてもらってるだけありがたいけどな」
「そうよ。そう思わなくっちゃ!」
「お前って……」
「じゃあ私、帰るねっ。また明日も朝練なんだから夜更かししちゃだめだよっ!」
「お、おい……」
「バイバ〜イ!」
「…………」

手を振って駅の改札口へと消えてゆく美代を見ながら、やっぱりあいつも俺の家の食事はイマイチだと思ったんだ――と確信した敏彦だった。

美代が消えた改札口をくぐり、別のホームへと歩く敏彦。
二人の家は駅を挟んで反対方向にある。
敏彦は、この駅から五つ離れた駅。
そして美代は、反対側に四つ離れた駅だ。

「ふあ〜あ。眠てぇ……」

向かいのホームに美代の姿はない。
きっと、今さっき発車した電車に乗ったのだろう。
レールの遠くに消えようとしている、美代が乗ったであろう電車をボーっと眺めた敏彦。

「一人になると、急に寂しくなるな」

そんな事をぼやきながら待っていると、ホームに電車が滑り込んできた。
その電車に、あくびをしながら乗りこんだ敏彦は、少し混雑した車両のつり革を握り締めるとウトウトしながら家路に着いた――



「ただいま」

西川という表札の掛かった一軒家。
玄関で靴を脱いだ敏彦がキッチンに顔を覗かせると、「あら、お帰り敏彦。もうすぐご飯が出来るからちょっと待っててね」と、母親が話しかけてきた。

「今日の飯、何?」
「ん〜?今日はお好み焼きと焼きそばよ」
「……あっそ」
「何?嫌だった?」
「いや、別に嫌じゃないけどさ」
「ふ〜ん……まあいいわ。早く着替えてらっしゃい」
「ああ」

やっぱり栄養のことなんて考えてないな――
そう思った敏彦は、美代の話を思い出しながら二階にある自分の部屋に上がった。

「美代の家はバランスのいい食事が出てるんだろうなぁ」

別に母親の作る料理が嫌なわけじゃない。お好み焼きも焼きそばも敏彦の大好物だ。
ただ、美代に言われたことがちょっと気になっていただけだった。

「野菜なんてほとんど食べないからなぁ……っていうか、母ちゃんが野菜嫌いだし」

このままじゃ、栄養バランスが崩れて体力が落ちるんじゃないか?
女の子の美代の方が速いタイムが出るようになったりして。

そんな事はない。
そう思いながら制服を脱ぐと、もともとカッターシャツの下に着ていた白いTシャツに、青い短パンというラフな格好になった。
ベッドに制服を放り投げているのはいつもの事だ。

「それにしても、今日はやたらに腹が減ったなぁ」

美代と帰るときから、腹時計は何度も何度も鳴っていた。
もちろん、今も同じように鳴っている。

「さて、栄養バランスの取れてない飯でも食いにいくか」

半分諦めた声を出した敏彦は、母親のが夕食の準備をしているキッチンへと降りていった――




★★★★★




次の日の朝――

今日もすがすがしい青空が広がっている。
こんな日のプールの水は少し冷たいが、透明色の水に反射する太陽の光が眩し過ぎるほどで気持ちが良い。
他の部員同様、紺色の競泳水着に着替えた美代は朝錬に参加していた。
同じく、男子水泳部も別のレーンを使って朝錬を行っている。

「あれ?敏彦がいない」

いつもなら柔軟体操が終わった後、すぐに話しかけてくる敏彦だが何故かその姿が見えない。
今まで朝錬をサボったことがないだけに、その姿が見えないのがとても気になった。

「ねえ」
「何だよ福原」
「今日は敏彦、来てないの?」
「まだ来てないみたいだな。珍しいよな、あいつが朝錬サボるなんて」
「……何かあったのかな?」
「さあな。きっと寝坊でもしたんじゃないか?」
「それならいいんだけど……」

そうだ、寝坊しているのかもしれない。
でも、あんなに頑張って練習していた敏彦が寝坊でサボるなんてことがあるだろうか?
たまに夜更かしする事だってあるだろうが、それでも練習には参加していたはずだ。

「どうしたのかな?事故なんかに……巻き込まれてないよね……」

いつも学校に携帯を持って来ない美代。
職員室の近くに公衆電話もあるのだが、携帯のメモリーに記憶している敏彦の番号を覚えていないので掛けられない。
今の美代には、連絡のつけようがなかった。
大丈夫だとは思っていても、心配な気持ちは少しずつ膨れ上がってゆく。

「何してるの?早く泳いでよ」
「えっ、あっ!す、すいません」

プールサイドで順番待ちをしていた美代は、前の部員がとっくに泳ぎ始めている事に気づいていなかった。
慌ててプールに飛び込み、クロールで二十五メートルを泳ぎきる。

「敏彦……」

結局、朝錬には姿を見せなかった敏彦だったが、更に一時限目の授業が始まっても現れなかった――