(お姉ちゃん、まだ起きてる)

紀子の部屋の扉を素通りした恵美は、ベッドで俯けに寝ころがって肘をつき、携帯でメールを打っている紀子を見た。

(誰にメールしてるんだろう?)

そう思って紀子の横に移動する。
どうやらさっき話していた友達の瀬梨夏にメールを打っているようだ。
その内容を覗き見してみると、恵美の事が書かれていた。

――恵美ったらミーハーだからね。もうたまんないよ――

そんな内容が書かれており、今も打ち込まれ続けている。

「お姉ちゃんっ。そんな事、友達に言わなくてもいいじゃないっ!」

腹を立てた恵美が、紀子に叫んだ。
でも、紀子には声が届かないようで、恵美を無視するかのようにメールを打っている。

「……私の声、聞こえないんだ……」

そう呟いた恵美。

「お姉ちゃんのブス、短足、バカ」

紀子の反応はない。

「やっぱり聞こえないんだ」

だからどうというわけでもないが、恵美は紀子に向かって何度も悪口を言った。
反応はないものの、本人を目の前にして悪口を言うと、結構すっきりするものだ。

「はぁ、とりあえずちょっと気持ちは収まったかな。じゃあ早速試しちゃお!」

少し機嫌がよくなった恵美はベッドの上に立った。
本来なら足の所がへこむはずだが、重さのない幽体の恵美がベッドに乗っても何ら変わりはしない。

「……出来るかな?」

そう呟いた恵美が寝転んでいる紀子の足首を踏みつけるように、そっと自分の足を乗せた。
いや、正確には紀子の足首に、恵美の足がめり込んだ状態だ。

「っ!」

ビクンと震えた紀子の身体。
どうやら全身が金縛りにあった状態らしい。
今までメールを打っていた携帯がベッドの上に落ちる。
その様子を見ながら、両膝を突いた恵美。
紀子の足に、恵美の幽体が隠れている。

「ぁ……ぁぁ……」

ビクッ、ビクッと震える紀子。
何が起きているのか分からないようで、その目は見開き、口を開けたまま言葉にならない声を出している。

「お姉ちゃんの足に、私の足がめり込んじゃった……」

そう呟きつつ、ゆっくりと紀子の身体に幽体を重ねてゆく。
腕立て伏せをするようにベッドの上に両手をついた恵美が、下半身、そして胸から頭まで紀子に覆いかぶさるように重なる。

「ぅっ……ぁっ、ぁぁぁ……」

苦しそうな表情をする紀子だが、恵美の幽体が完全に見えなくなったとたん、ガクンと首を垂れて気を失ってしまった――